今でも記憶に残っている仕事

東北からの家出人

信じられないかも知れないが、東北のA市から三回も家出してきた男性がいる。年齢は私と同じくらい。あまり恵まれた環境ではなかったらしいが、弟思いの姉が依頼人だった。

1回目

以前住んでいた過去のある北区の知り合いのマンションや、当時付き合っていた女性のいる中野区のマンションに身を寄せていた。一度目は北区のマンションに居る所を依頼人である実姉に居場所を教えたので、その後は話し合いの末、東北に帰った。

2回目

今回は自分ひとりで担当。当然、前に居たマンションにはおらず、数日張り込みしたが姿は現さなかった。北区や池袋周辺のサウナや漫画喫茶等、家出人が現れそうなスポットに対して内偵調査を試みたが、個人情報保護法を盾にされ何も教えてくれない。そこで、以前居た場所の近くにある漫画喫茶やサウナ、パチンコ店などをピンポイントで張り込みを続けながらようやく探し当てたのが赤羽の漫画喫茶だった。
前と変わらない風貌で現れた。2時間ほどで漫画喫茶を後にしたのだが、自転車で住宅街に向かった。当時、自転車を用意していなかった自分は住宅街で見失ってしまった。
数日が経ち、再び漫画喫茶で張り込みを続けていたら、夕方現れた。やはり2時間ほど過ごして自転車で住宅街に向かう。自分も自転車を用意していたので、今回は何とかアパートまでは突き止めた。

東北のA市で調査報告を待っている実姉に報告すると、翌日東北新幹線で大宮まで来て、そこから埼京線で赤羽まで来てくれた。家出人は赤羽のパチンコ店でパチンコをしていた。喫茶店で実姉と打ち合わせ中に実姉が泣き出してしまった。自分はまだ25歳の若造の探偵、どうしたら良いか分からずにいたが、実姉に「自分を強くもって、弟さんを説得してください。最後まで見守り続けますから、、、」といって、実姉と共にパチンコ店に向かった。
暢気にパチンコをしている弟の肩をたたく実姉。家出人はかなり動揺していたが、少しホッとしたような表情も見せた。そのまま駅前の喫茶店に二人で移動した。自分も少し離れて歩き、時間差で喫茶店に入った。

お茶を飲みながら1時間くらい話をしていただろうか、実姉がトイレに立ち、入ったのを確認すると、家出人は我に還ったようにスッと立ち上がり、ものすごい勢いで喫茶店を出ると、自転車にまたがり住宅街に向かった。自分は一旦喫茶店に戻り、トイレから出てきていた実姉に事の顛末を報告。家出人にはまだアパートの存在を言っていなかったので、実姉と共にアパートに向かった。やはり自転車がアパートの敷地内にあり、帰宅していることはすぐに判明した。
再び泣き出す実姉。最初に言った言葉をもう一度、実姉に言い聞かせ(年上の女性だったけど)説得し、家出人のいるアパートの部屋に向かわせた。

先ほどまで泣きべそをかいていた実姉だが、こうと決めたら女性は強いのか、アパートのドアを何回もノックし、家出人である弟の名前を呼びながら1時間以上、説得し続けた。近所の住民もなんだなんだといって見に来るほど、ノックする音と、実姉の声は響き渡っていた。
自分もアパートの傍からじっと見守っていた。しばらくして、そっとドアが開き、実姉はアパートの部屋に入った。それから90分くらいであろうか、もう暗くなっている時間に荷物を抱えた家出人と実姉がアパートから出てきた。二人はゆっくりと赤羽駅に向かい、自分も少し離れて様子を見守った。

二人は赤羽駅のみどりの窓口で東北新幹線の切符を購入。宇都宮線で大宮方面に向かったことを確認し、調査を終了した。

3回目

あれから何年も経った。家出人は再び家出し、今度は都内の会社に就職した模様で実家に戻ることはないだろう。理由は不明だが、両親の居ない兄弟で、親戚の所に身を寄せていた二人。依頼人は今はどうしているんだろう。


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